AIの進歩とともに「ソフトウェアエンジニア不要論」が囁かれるが、むしろ「すべてのビジネスパーソンがソフトウェアエンジニアに近づく」のではと考えている。
昨今、AIコーディング支援ツールは、凄まじい勢いで発展を続けており、人間がプログラミングを学ぶ必要性は、もはや無いようにも思える。
アメリカでは、「Vibe Coding(雰囲気コーディング)」という言葉まで生まれ、AI Agentに丸投げしてアプリやプログラムを形にする未来が、本当に現実のものになりつつある。
筆者自身、米国の大学院で統計学の修士を取得し、AIや機械学習、プログラミングを専門としてきたため、AIの進歩のスピードに、失業の恐怖すら感じている。
しかし、AI全盛期の今こそ、プログラミング知識が全くない学生や社会人の場合には、プログラミングを学ぶ意義はむしろ高まっている、と考える。
初学者が、今このタイミングでプログラミングを学ぶ意義として、以下を指摘したい。
- アドホックなプログラミング需要の高まり:AI支援によりアプリ開発コストが急激に低下するので、「使い捨てのミニプログラム」をあらゆる企業やチームが日常的に使い始める
- ドメイン知識とプログラミング知識の掛け算:あらゆる産業において、ドメイン知識(分野特有の知識)を持ち、業務をミニプログラムで自動化・効率化できる人材の価値が高まる
- プログラミング学習のコストの急激な低下:AIが全ての質問に答えてくれ、コーディング自体も手伝ってくれるので、従来なら1年は掛かるスキルレベルに1-2ヶ月で到達できる
AIがどんなアプリでも瞬時にプロトタイプレベルまで開発してくれるので、数百人〜数千人のエンジニアで開発するような、全世界共通のSaaSや大規模システムが果たす役割は減っていく。
その一方で、自社特有の課題を解決するミニアプリや、一人一人の日常的な仕事を自動化するミニアプリのような、小規模なプログラム開発は、むしろ今まで以上に増えるはずだ。
そんな時代を生き抜くべく、本記事では、全くプログラミングの知識がない初学者のために、ゼロからのプログラミング学習方法をまとめた。
筆者自身も、もともと文系総合職から突如転向した身なので、本当の実体験に基づく教材・学習法を紹介している。
プログラミングに興味はあるが、AI時代にプログラミングを学ぶ意味があるのか悩んでいる人は、ぜひ参考にしてほしい。
1. プログラミング言語の選び方:初学者はPythonが吉
まず、プログラミングの学習を始めるには、どの言語を学ぶかを判断しなければならない。
プログラミング言語の選択肢は数多くあるが、初学者には「Python」を強く推奨する。
文法がシンプルで読みやすく、AI活用、Web開発、データサイエンス、業務自動化など、幅広い分野で使われており、学習リソースも豊富だからである。
将来的にWeb開発をしたいとしても、アプリ開発をしたいとしても、データ分析をしたいとしても、何をするにもPythonの知識をベースに応用が効く。
また、世界的に利用者が多いので、沢山の情報がネット上に出回っており、それらの情報から学習しているChatGPTやGeminiなどのAIモデルも、総じてPythonのコーディング力が高い。

ネットに情報があまり出回っていない新しい言語や、ユーザーが少ない言語は、AIモデル達も知識が不足しているので、AIの力を十分に活かせないのだ。
AIへ質問をしたり、AIにコーディングを手伝ってもらうに際して、AIモデル自身が知識豊富な言語を選ぶのが重要だ。
2. 初学者がPythonを学ぶのに最適な動画・本・アプリ
Pythonをゼロから学ぶことを前提に、おすすめの学習ロードマップを紹介する。
筆者自身、文系から理転してゼロからプログラミングを学んだ経験があるため、初学者の挫折しやすいポイントは理解している。
無料でお金をかけずに学ぶプランと、多少の教材費は惜しまずに効率的に学ぶプランの両方を検討したので、学生から社会人まで、ぜひ参考にしてほしい。
【推奨プラン】動画講座も活用して効率的にPythonを学ぶ教材まとめ
非常にシンプルだが、最も有効なPython学習法は、以下の2ステップで進めることだと思う。
- Pythonの基本文法を網羅する動画講座を、1つ定めて徹底的にやり込む
- 理解が浅い分野を補うため、定番の学習本を必要に応じて読む
動画と書籍について、実際に筆者自身が初学者だった時代に活用した教材も含め、オススメの教材リストをピックアップしたので、参考にしてほしい。
ステップ1の動画講座を1つ完了して、理解できなかった点だけステップ2の書籍で補えば、驚くほど世界が広がっていることに気づくはずだ。
AIのコーディング支援を活用すると、これらの教材の内容をマスターするだけで、相当高度な自動化・効率化プログラムも書けるようになる。
ステップ1の動画教材の推奨教材リスト
質の高い動画教材を入手するにあたって、英語であれば、有名大学の講座なども無料で公開されているのだが、日本語ではどうしても有料の教材に頼らざるを得ない。
- Udemy「たっぷりの練習問題を楽しみながら学ぶPython講座」(日本語)
- Udemy「現役シリコンバレーエンジニアが教えるPython 3 入門 + 応用」(日本語)
- Coursera「Python for Everybody – University of Michigan」(英語)
この3つの中から、どれかひとつ、「これをやり込む!」と心に決めて、コツコツ視聴を進めるのがベストだ。
プログラミングは、とにかく自分の手を動かして練習問題を解くことが習得の王道だ。たくさん本や動画を見て学んでも、実際に自分の手でタイピングしないと(よく「写経」とも言われる)、驚くほど身につかない。
そのため、特に上記の1番目は、練習問題・サンプルコードが重視された講座で、手を動かして練習できるため強く推奨する。
ステップ2の教科書・参考書の推奨リスト
筆者自身も長年愛用していた世界的なベストセラーPython本として、以下の書籍を勧める。
世界で150万部以上売れている「PYTHON CRASH COURSE」という書籍の日本語翻訳版だ。
基礎から丁寧に解説されており、初学者であっても、究極この本だけでゼロから中級者の入り口まではたどり着けると言っても過言ではない。
特に「必修編」は、Pythonの基礎文法が懇切丁寧に解説されているので、動画で十分に理解できなかった章だけでも読み込むと良いだろう。
「実践編」は、データ分析やウェブ開発など、Pythonを実用的な分野に応用する内容であり、興味があればやってみてもいいが、必須ではない。
なぜ動画が有用なのか?
初学者がプログラミングを独学するにあたっての最大の壁は、Pythonプログラムを自分のパソコンの中で作成・実行できるようにするまでの「環境構築」と言われるステップだ。
Pythonの教科書の第1章は、ほぼ確実に環境構築が説明されているが、全く知識がない人が独学を始めると、大体この第1章で行き詰まりがちだ。
環境構築が終わらないと、どんなに素晴らしい教科書・参考書でも、1ページも前に進むことができないので、実にもったいない。
だからこそ、最初のPython教材は、動画がお勧めだ。動画なら、実際の操作画面を見ながら学べるため、環境構築やツールの使い方をスムーズに理解できる。
環境構築さえできれば、あとは世の中のあらゆる教材を独学で進められるので、これらの動画講義でスタートダッシュを切るのが重要だ。
【無料で頑張るプラン】無料で公開されている学習教材の量もPythonの強み
一方で、どうしても動画教材や書籍を購入するお金が用意できない、という学生などにも希望はある。
Pythonは世界的に利用者が多く、無料で公開されているリソースが豊富にあるため、自分で積極的に情報を集め、質問コミュニティなども利用すれば、十分独学することができる。
無料でアクセスできるPython教材まとめ
ここでは、Pythonの重要な基礎文法が網羅的に解説されており、しっかり取り組めばPythonの初級〜中級レベルに到達しうるリソースを厳選した。
いずれも大学が公開してくれている資料で、読むだけでも十分に習得可能だ。
- 東京大学「Pythonプログラミング入門」
- Googleドライブ上で使える「Google Colab」というツールでPythonを学ぶ
- PCの環境に左右されずにクラウド上で完結する
- 京都大学「プログラミング演習 Python 2023」
- PCでのPython環境構築も扱われている
- Windows環境が主だが、Macにも触れられている
先述の通り、全く知識がゼロの初学者にとって、自分のPCでの環境構築のハードルは高い。右も左も分からないのに、環境構築について書いている解説を読んでもちんぷんかんぷんだからだ。
その点、東京大学の講座は、あらかじめPythonが導入されている「Google Colab」というGoogleのツールを使うことで、環境構築を迂回できる。
Googleアカウントは必要だが、最も手間が少ない。一通りプログラミングを学んでから、時を見て自分のPCで環境構築をすればいいと割り切るアプローチだ。
一方で、京都大学の講座は、内容も面白く完成度が高い教科書だと思うが、Macでの環境構築の方法などはかなりあっさりした解説しかない。
学習のヒント:AIを最強の家庭教師に
プログラミングを独学する上では、質問する相手がいないのが最大の課題だ。
AI時代ならではの活用法として、学習中に分からないことがあれば、迷わずChatGPTなどのAIに質問することを勧める。
「このコードはどういう意味か?」「このエラーの原因は?」「〇〇を作るにはどうすればよいか?」など、どんな質問をしても、的確な答えが返ってくる。
また、独学では練習問題を解く経験を積むのが難しいが、ChatGPTに「Pythonの関数を勉強しています。練習問題を作ってください」などと言えば、練習問題を出してもらえる。

問題を解いたら、採点もChatGPTがやってくれるので、独学でも十分な問題演習量を確保できる。
Pythonの次に進むべき道:分野別ルート紹介
Pythonの基礎を固めたら、次はより応用的な分野に取り組んでみるとよい。
プログラミングは、ある言語を一つでも網羅的に学んだ経験があれば、他の言語や周辺ツールを学ぶことが遥かに楽になるのが特徴だ。
基本的な概念や機能は、言語や分野が変わっても共通なので、Pythonがわかるだけで、プログラミング関連のトピックは概ね内容を把握できるはずだ。
ここでは、Pythonを学ぶことで広がる新しい可能性を感じてもらうため、代表的なネクストステップと、次に取り組むべき技術やキーワードをごく簡潔に紹介する。
AIによる業務自動化・スクリプティング
- 学習テーマ: 定型業務の自動化、AI活用ツール/ミニアプリの作成
- 主要なトピック/ツール:
- API連携: OpenAI, Anthropic, Googleなど各社LLMのAPI
- Webスクレイピング: Beautiful Soupなど
- ファイル操作: Google Colaboratory (Drive連携)、osなど
- 自動化ツール: Google Apps Scriptなど
- 実現できること: Excel/Word/PDF操作自動化、Webサイトからの情報自動収集、メール自動送信、定型レポート作成など。
ExcelにPython機能が導入されたことで、表計算などの業務が多い人は、直接的にPythonの知識を活かすことができる。
また、Googleスプレッドシートのデータは、Google ColaboratoryというGoogle公式の無料のPythonツールを使って、いくらでも分析・編集・自動化が可能なので、可能性は大きく広がる。
データサイエンス・AI・機械学習
- 学習テーマ: データの収集・分析・可視化、統計モデリング、機械学習アルゴリズムの実装
- 主要なトピック/ツール:
- 数値計算・データ操作: NumPy, Pandas
- データ可視化: Matplotlib, Seaborn
- 機械学習: Scikit-learn
- ディープラーニング: TensorFlow, PyTorch
- 実現できること: データ分析レポート作成、株価予測、画像認識、自然言語処理など
Pythonはデータ分析やマシンラーニング関連のライブラリが充実しているので、特に仕事でデータ分析などを行う人は、Pythonの基礎文法の知識と、ChatGPTなどのAIツールの補助があれば、圧倒的に生産性を向上させられるはずだ。
Web開発
- 学習テーマ: WebサイトやWebアプリの仕組み、バックエンド(サーバー側)とフロントエンド(ブラウザ側)の開発
- 主要なトピック/ツール:
- バックエンドフレームワーク: Django, Flask
- フロントエンドの基礎: HTML, CSS, JavaScript
- 実現できること: 動的なWebサイト、ECサイト、Webアプリなどの開発
Pythonと比べると、HTML/CSSなどの知識はかなり容易に習得できる。ちょっとした静的なWebページであれば、1日でサクッと作れるようになるはずだ。
加えて、Javascriptの基礎を学べば、AIツールを活用することで、かなり高度なWebサイトやWebアプリの開発が可能になる。
AI全盛の時代にコーディングを学ぶ3つのメリット
現在では、ChatGPTやGeminiなどのAIチャットツールや、CursorやClineのようなAIコーディング支援ツールを最大限に活用することで、非常に有利に学習を始められる。
今このタイミングでプログラミングを学び始めるメリットとして以下がある。
- AIのサポートで、初学者と上級者の差が縮まる
- 非エンジニアでも、自分の業務効率化に活かせる
- キャリアや経済的にも有利になりうる
従来、プログラミングの独学は茨の道で、原因不明のエラーで行き詰まったり、身近に質問できる相手を見つけるのが難しかったり、挫折の原因だらけだった。
しかし今は、ChatGPTなどのAIチャットツールがあるので、24時間いつでもサポートしてくれる専任の家庭教師が居るようなものだ。
また、AIのコーディング支援の性能が上がり、日常のちょっとしたタスクでも、一言AIに頼むだけで、1分そこらでオーダーメイドのプログラムが完成してしまう。Web情報の自動収集やExcelでのデータ集計・分析など、日常業務をサクッとプログラムを書いて解決する、ということが、誰でも真似できるようになった。
キャリア面でも、プログラミング知識のある学生や文系社会人は当分は有利なはずだ。自身の専門分野(医療、金融、教育など)の知識と、プログラミングスキルを組み合わせることで、就職・転職市場で競争力が高まる。
少しでもプログラミングの知識があれば、AIを使ってドーピングができるので、初学者でも、短期間で中上級者の仲間入りができる。
現場の課題を見つけ、解決策を考案し、AIを活用して自社特有の課題を解決する人間の役割は、今後ますます重要になるはずだ。
今回紹介したPythonは、その第一歩として最適な言語である。
豊富な学習リソースとAIのサポートを活用すれば、かつてないスピードで、プログラミング知識を実生活や業務に活用できるはずだ。