スマートフォンからチャット感覚でアプリ開発ができる時代が、ついに到来した。
2025年2月4日、AIエージェントによるアプリ開発・Web開発ツールの「Replit」が、待望のiOS/Androidアプリをリリースしたのだ。
注目すべきは、スマホアプリでも「Replit Agent」という強力なAI機能が使えること。
ユーザーが自然言語で「こんなアプリが作りたい」と伝えるだけで、環境構築からデプロイまでを全自動で実行してくれる革新的な機能だ。
例えば、ジムに通っている人が、「筋トレの記録を取れるアプリが欲しいな」と思いついたとする。従来なら、プログラミングスキルがない人にとって、誰かが開発してくれるのを待つしかなかった。しかし、Replitがあれば、数分後には使えるアプリが完成する。
本記事では、このReplitのスマホアプリを実際に使って、シンプルなゲームから実用的なアプリまで、様々な開発例を試してみる。
プログラミング経験がなくても、スマホでアプリ開発を始められるので、ぜひ試してみてほしい。
Replitとは何か?プログラミング知識不要のAI開発
そもそも、Replitが何かを知らない人のために、まずはReplitの概要を紹介しておく。
Replitは、AIによるコーディング支援と、ブラウザ上で動作するクラウドベースの統合開発環境(IDE)を掛け合わせたサービスである。
要するに、プログラミング知識がない初心者であっても、アプリやソフトウェア、ウェブサイトを、Web上で簡単に作成することができる革命的なAIツールだ。
例えばWeb版にアクセスすると、作りたいアプリをAIに伝えるだけで開発が始められるチャットがいきなり表示される(→後述する「Replit Agent」機能)。
Replitが優れているのは、環境構築やデータベース設定、APIキー等のシークレット管理まで、初心者がつまずきそうな裏方作業を、すべてAIが勝手に実装してくれるので、全くの初心者でもアプリが開発できる点だ。
Replitだけで、コードの記述、実行、デバッグ、アプリケーションやウェブサイトのデプロイを一元的に行うことができ、しかも全てにAIによるサポートが付いてくるのだ。
思いついたアイディアを速攻でアプリとしてデプロイできるので、会社のチームで新製品や新機能のプロトタイプを開発したり、あるいは週末に日常のちょっとした悩みを解決するアプリを開発したり、開発の楽しさを誰でも味わうことができる。
作成できるアプリ数の上限が3つなど、使用量の制限はあるが、「Starter」プランは無料で利用できる。まだ登録していない人は、ぜひ登録することを勧める。
iPhone/Android上でアプリが作れるReplit Agentを試す
Replit Agentは、Replitに含まれる機能の一つで、自然言語による指示だけでアプリケーションを構築できるものだ。
CursorやGithub Copilotのような単なるコード生成ツールにとどまらず、開発環境の構築、コード作成、依存関係のインストール、デプロイまでを、自動的に実行してくれる。
ユーザーが自然言語でアイデアを入力するだけでアプリ開発が完結するので、全ての人類を開発者にしてしまうようなサービスだ。
2025年2月4日、ついにこのReplit Agentが、ReplitのiOSアプリとAndroidアプリにも実装された。しかも、無料ユーザーでも利用可能だ。
これにより、プログラミング未経験者でも、通勤中でも布団の中でも、いつでもスマホからアイデアを「アプリ」として形にできるようになってしまったのだ。
ここでは、スマホ版のReplitアプリで、実際にアプリ開発を行いながら、ReplitおよびReplit Agentの使い方を解説していく。
スマホ版Replitアプリをダウンロード&会員登録
まず、スマホにReplitアプリをダウンロードする。
iPhone / iPad ならば Apple App Store から、Android ならば Google Play Store から入手することができる。
アプリを始めて開くと、以下のようにログイン画面になるが、初めての人はいずれかのボタンをタップすることでアカウントを作成することができる。
ログインすると、早速以下のようなReplit Agentとのチャット画面が表示される。
セットアップ自体はこれで完了だ。
チャットでは日本語を使うことも可能なので、作りたいアプリをチャットに打ち込むだけで、Replit Agentが実装を開始してくれる。
Tic-Tac-Toeゲームアプリを1分で構築
それでは、早速Replit Agentを使って、チャットだけでアプリを開発してみよう。
最初は非常にシンプルな例として、「三目ならべ」ゲームを作ってみる。英語ではTic-Tac-Toeゲームと呼ばれる、9マスの盤面に○×を交互に並べて3つ揃えるのを競うゲームだ。
Replit Agentに与えた最初のプロンプトは非常にシンプルで、以下の1行だけだ。
「2人対戦型のシンプルなTic-Tac-Toeゲーム」
プロンプトを送信すると、Replit Agentが考えたのち、どのようなアプリを作成するかの計画と、追加すると良さそうな機能をオススメしてくれる。
提案された中から、実際に追加したい機能があればチェックを入れて、「Approve plan & start」をタップするだけで、アプリの構築が開始される。
すると、Replit Agentが勝手に環境構築を始め、必要なパッケージやモジュールをインストールし、コードを書き、1分も経たずにプレビューを完成させてしまった。
チャット画面上に、アプリ画面のプレビューがpicture-in-pictureで表示される。
Replit Agentが、正しく動作するかどうか質問をしてくるので、実際に完成したアプリを触ってみて、動作チェックを行う。
画面左下のモニターのようなアイコンをタップすれば、実際のアプリ画面を開くことができる。
見事に三目並べゲームが完成しており、様々な勝敗パターンをタップしてみてもエラーは発生せず、「Reset Game」ボタンも正しく動作した。
非常にシンプルな例であるが、Replit Agentでアプリを開発するときの基本的な流れは以上だ。
さらに高度な機能を実装したければ、チャットでAgentに追加でお願いをすれば、修正を反映してアプリを再構築してくれる。
ちなみに、開発中のアプリからExitして、Replitアプリのホームに戻るには、まず画面右下にあるタブのようなアイコンをタップする必要がある。
すると、開発中のプロジェクトで開いているタブ一覧画面になるが、左上のExitボタンをタップすると、ホーム画面に戻ることができる。
筋トレのログ記録アプリを作ってみる
Tic-Tac-Toeはあまりにもシンプルなので、もう少し複雑で実用的なアプリの例も作成してみる。
Replitがあれば、どんなアプリでも簡単に作れるので、自分の日常生活で「こんなアプリがあったらいいのに・・・」という不満を発見したら、Replitで即座に形にできる。
例えば、健康のためジムに通っており、成長を記録するため、筋肉トレーニングやランニングの履歴をメモっておきたいが、自分のトレーニング内容に合致するアプリがない、なんて時は、まさにReplitの活躍する場面だ。
Replit Agentに、以下のプロンプトを与えて、少し複雑な筋トレログアプリの開発を頼んでみた。
以下の要件を満たす、マシントレーニングの履歴を記録するアプリを作成したい。
**必須要件**
* トレーニング履歴を日付別に記録できること。
* デフォルトで以下の5つのトレーニングメニューが用意されていること。
* ランニングマシン(記録項目:距離、時間)
* ラットプルダウン(記録項目:重さ、回数、セット数)
* ベンチプレス(記録項目:重さ、回数、セット数)
* スクワット(記録項目:重さ、回数、セット数)
* デッドリフト(記録項目:重さ、回数、セット数)
* ユーザーが新規のトレーニングメニューを追加できること。
* 新規トレーニングメニューには、重さ、回数などカスタム項目を設定できること。
* トレーニング履歴は日付ごとのリストで表示すること。ただし、月ごとにまとめ、各月の日付は折りたためるようにすること。
* 記録したトレーニング履歴を後から編集・削除できるようにすること。
すると、Tic-Tac-Toeの時と同様に、エージェントが計画を立てて、追加機能を提案してくれる。ログのエクスポート機能など、魅力的な提案もあり、AIがちゃんとアプリの用途を理解していることが分かる。
ただ、今回はあまりアプリを複雑にし過ぎたくないので、追加機能なしで「Approve plan & start」をタップした。
そして、今回はPythonとStreamlitを使ったWebアプリをデプロイしてくれた。
プロンプトで指示した通り、各ワークアウトと、日付、レップやセットを記録できるようになっている。
ただ、今回は最初のプレビューでエラーが発生してしまった。エクササイズの種類を変更すると、以下のようなエラーメッセージが表示されてしまうのだ。
うまく動作しない時や、エラー発生が発生した時の対処法としては、その問題をReplit Agentに伝えればいいだけだ。
今回の場合、エラーメッセージを丸ごとコピペして、Replit Agentに「〜の操作をしたら、以下のエラーが出た」と伝えたところ、勝手にReplit Agentが原因を考えて修正を進めてくれた。
すると、ちゃんと一発でエラーが修正され、ランニングマシン以外のワークアウトについても、記録を入力できるようになった。
ワークアウト履歴も、入力内容に基づいて、月ごとにまとめて表示してくれるようになっている。言葉で指示しただけで、自分が思い描いたアプリが、数分で完成して動作してしまうことには驚かされる。
あとは、細かいレイアウトの調整や、履歴をグラフで表示する機能の実装、ログのエクスポート機能の実装などなど、自分好みのカスタマイズをReplit Agentに指示すれば、本当に実生活で使える自分専用アプリの完成だ。
ちなみに、途中でデータベースを追加するかどうかもAgentが質問してくるなど、アプリを実装する上で必要なオプションについて、AIの方から色々提案してくれることもある。
データベースを追加することで、アプリを再起動した場合などでもユーザーのデータが維持されるようになる。
実際にアプリを広く公開して世の中の人々に使ってもらいたい場合には、データベースも必要になるが、Replitアプリと自分のスマホの中で遊ぶだけであれば、追加しなくてもよい。
筆者はデータベースなしの状態で、アプリの起動終了など何回か繰り返してみたが、データは消えていなかった。開発するアプリの仕様により異なる可能性はあるので、本当に記録をずっと保存しておきたい場合には、データベースも追加した方が安心かもしれない。
Replitを使いこなす:アプリ共有方法や無料版の制限
初心者がReplitのスマホアプリでアプリ開発をするにあたって、無料アカウントならではの制約など、知っておいた方がいい点を紹介する。
以下に詳述するが、Replitでは、作ったアプリを友達にシェアして、コラボしながらアプリを改善していく、なんて使い方もできる。
開発の楽しさを手軽に味わえるのでおすすめだ。
無料ユーザーが作成できるアプリは3つまで
ReplitのStarterプラン(無料プラン)では、作成して保存しておけるアプリの数は3つに制限されている。
ただ、上限に達した場合でも、既存のアプリをどれか削除すれば、枠は復活するので、4つ目、5つ目とアプリを作ることも可能となっている。
アプリの一覧から、削除したいアプリを選択して、メニューから「Delete」をタップすれば、アプリを削除することができる。
Replit Agentはcheckpointによる利用量制限あり
なお、コードを新規作成したり、機能追加のため変更したりするタイミングで、バージョン履歴のようなもの(checkpoint)が作られ、後でそのcheckpointの状態に復元することができる。
プランによって月間のcheckpoint数に制限があるが、無料ユーザーの場合はcheckpointが10個までに制限されている。
あまり沢山のアプリを作ってしまうと、すぐに課金が必要になるので、三目並べのようなあまりシンプルすぎるアプリを作るのは勿体無いかもしれない。
作ったアプリはシェア可能&他人のリミックスも可能
Replitで作成したアプリは、自身のアプリライブラリから、そのアプリにアクセスできるURLを他人にシェアすることも可能である。
シェアされた側では、アプリ開発のために使用した最初のプロンプトや、現在のコードベースを閲覧することができる。
「Remix this app」をクリックすれば、他のユーザーが、既存アプリの改変を行うことも可能である。
したがって、Xなどで公開されている面白いReplitプロジェクトを、自分で「リミックス」して、自分好みのデザインに変えたり、欲しい機能を追加したり、といったことが可能なのだ。
すべての個人と企業が開発者になれる世界
通勤途中でも、ふと思いついたアイディアを言葉で伝えるだけで、数分後にはアプリの開発とデプロイが完了している、という夢のような世界が、もう実現されてしまった。
AIの発展によって、これから数年もすれば、あらゆる個人や企業が、自分専用のマイクロアプリを速攻で開発〜デプロイして、ルーティンワークをこなせる時代が来てしまうのではないか。
もちろん、まだまだ現状では、Replit Agentとの会話だけでは複雑なアプリをうまく構築できないことも多く、エンジニアリングやデザインの知識がないと、プロダクションレベルのアプリを構築するのは難しいだろう。
当分は、個人のちょっとしたニーズを満たすアプリを簡単に作れるノーコードツール、という域を出ない可能性もある。
ただ、最近のLLMの進歩はあまりにも早く、各社が次々と新しいモデルをリリースしているので、先週はダメだったことが今週はできるようになっている、なんてこともザラに起きる。
こうしたAIエージェントによる開発ツールも、凄まじい勢いで進歩して、あっという間に人間の開発者のレベルに追いついてもおかしくはない。
Replitの更なる進化と、Replitを支えているClaude 3.5 SonnetなどのLLMのモデルの進化に、引き続き期待したい。