
毎朝、目を覚ますと自分専用のポッドキャストが届いている。
今日の会議の予定と参加者のリサーチ、Slackの直近24時間の動向、AIニュースのダイジェスト。すべてが一つの音声ブリーフィングにまとめられ、Apple Podcastsで再生を待っている。
これは架空の未来の話ではない。「Dreamer」というサービスで、実際に動いているAIエージェントの一例だ。
しかも、このエージェントを作った方法は「AIに話しかけた」だけである。サーバー構築も、プログラミングも、デプロイ作業も一切不要。「毎朝のニュースとスケジュールをポッドキャストにまとめて」と伝えれば、10〜15分後には完成品が届く。
Claude CodeやCursorといったAIコーディングツールを使いこなせる人なら、似たような仕組みは自力でも構築できるだろう。だが、サーバーの設定、APIキーの管理、cronジョブの構築、デプロイ先の選定。これらすべてをこなせる人は限られている。
Dreamerは、その面倒なインフラ構築のすべてを「AIとの会話」に置き換えてしまう。
2026年2月にパブリックベータを開始したDreamerは、元Stripe CTOのDavid Singletonを筆頭に、Android・Google Play・Meta VRといったプラットフォームビジネスを築いてきた4人が創業したスタートアップだ。シード期としては異例の評価額約750億円($500M)・調達額約84億円($56M)で立ち上がり、Anthropicとの連携のもとで開発が進められている。
本記事では、日本語圏にまだほとんど情報がないDreamerについて、創業者ブログ・投資家レポート・Anthropicとの対談動画といった英語圏の一次情報を統合しながら、その全体像と使い方を解説する。
「自分だけのAIアシスタント」を会話だけで作れる
冒頭のポッドキャスト以外にも、Dreamerでは驚くほど多様なエージェントが作られている。いくつか具体例を見てみよう。
CEOのSingletonは、毎朝5つのニュースソースを巡回していた手間を、iOSのホーム画面ウィジェットから起動するニュースエージェントで完全に置き換えたと述べている。
さらに興味深いのは、中国語テック系ポッドキャストの翻訳エージェントだ。最新エピソードを自動でダウンロードし、英語に翻訳して音声化し、Podcastフィードとして配信する。すべてが寝ている間に完了する。
日常生活に根差した例もある。子供の学校からのメールを自動で読み取り、自分の子供に関係のあるイベントだけをカレンダーに登録し、緊急のものはプッシュ通知で知らせてくれるエージェント。忙しい保護者にとっては、毎朝のメールチェックから解放されるだけでも大きなメリットだろう。
プロのソフトウェアエンジニアであるSingleton自身も、「Dreamer上ではSidekickとチャットする以外のことをとっくにやめた」と語っている。
ここまで聞くと「結局プログラミングができる人向けでは?」と思うかもしれない。だが、DreamerのアルファテスターはHacker Newsでこう証言している。
「ターゲットユーザーは、Claude Codeを使ってアプリをデプロイできるような人ではない。それ以外の全員だ。Dreamerはエージェント作成のフリクションの99.9%を取り除いてくれる」
創業チーム4名の経歴
Dreamerの野心的なビジョンが業界で真剣に受け止められている最大の理由は、創業チームの経歴にある。
- David Singleton(CEO): 元Stripe CTO(2018〜2024年)。それ以前はGoogle VP of Engineeringとして、Android Wearを立ち上げた人物
- Hugo Barra(共同創業者): 元Google Android Product Management VP。その後Xiaomiのグローバル事業を統括し、MetaではVR部門のVPを務めた
- Ficus Kirkpatrick(CTO): T-Mobile Sidekick(初代スマートフォンの一つ)の共同開発者。初期Androidチームに在籍し、Google Playをマルチビリオンダラービジネスに育てた
- Nicholas Jitkoff(CDO): Chrome OS・Material Designのプリンシパルデザイナー。Dropbox VP of Design、Figma AI Design Leadを歴任
4人のうち3人がAndroidの初期メンバーであり、全員がプラットフォームビジネスの構築経験を持つ。「AIのAndroidモーメント」を謳うDreamerにとって、これ以上ない布陣だろう。
エンジェル投資家にもAndrej Karpathy(Vibecoding提唱者・元OpenAI)、Alexandr Wang(Scale AI CEO)、Andy Rubin(Android創設者)といった名前が並んでいる。
Dreamerの仕組み
Sidekick:エージェントを作るエージェント

Dreamerの中心にいるのが「Sidekick」だ。以下の3つの役割を担っている。
- ビルダー: ユーザーの自然言語による指示からエージェントを構築する
- オーケストレーター: エージェント間の連携を仲介し、データの受け渡しを制御する
- メモリ管理者: ユーザーの好み・文脈を蓄積し、プライバシーを管理する
Sidekickとの対話手段は3つある。チャット(デスクトップ/モバイル)、音声(モバイル)、そしてメールだ。専用メールアドレスにメールを転送すれば、Sidekickがそのタスクを実行してくれる。
エージェント構築の流れはシンプルだ。
- 「こういうエージェントが欲しい」と自然言語で伝える
- Sidekickが「ブループリント」(仕様書のようなもの)を作成する
- 内容を確認し、修正点があればチャットで調整する
- 承認すると、Sidekickがセキュアな仮想マシン上でコーディングを開始する
- 10〜15分後に完成通知が届く
Gallery:他のユーザーが作ったエージェントをワンクリックで導入

自分でゼロから作る以外にも使い方がある。Galleryには、他のユーザーが公開したエージェントが並んでおり、ワンクリックでインストールできる。
さらに強力なのが「リミックス」機能だ。既存のエージェントをコピーし、Sidekickと会話しながら自分好みにカスタマイズできる。

Anthropicとの対談動画では、NBAの試合追跡エージェント「Courtside」をリミックスして、プレミアリーグのサッカー追跡エージェント「Pitchside」に変えた事例が紹介されている。データソースを差し替え、UIをサッカー向けに調整しただけで、まったく新しいエージェントとして機能する。
Galleryで注目されているエージェントの例を挙げる。
| エージェント名 | 機能 |
|---|---|
| Pocketable | Webページの保存・要約・音声化。かつてのPocketのAI版 |
| Pitwall | F1レース情報をパーソナライズして配信 |
| Courtside | NBAチームの試合結果・ニュースをリアルタイム追跡 |
| SuperDo | AIがタスクの調査・着手まで支援するTODOリスト |
| Storytime | 子供向けパーソナライズ絵本を生成 |
| Ramble Wrangler | 音声メモを構造化されたドキュメントに変換 |
Tools:外部サービスとの接続

エージェントが外部の世界とやりとりするための仕組みが「Tools」だ。
組み込みで提供されているツールには以下のようなものがある。
- AI機能: 音声認識、画像理解、画像生成、テキスト読み上げ
- データソース: スポーツスコア、交通データ、映画上映時間
- インテグレーション: Google Workspace、GitHub、Linear、Slack等
ツールの実体はMCPサーバーであり、ユーザーが独自のツールを追加することもできる。プライベートに保つことも、コミュニティに公開することも可能だ。
パートナーツールとしては、元Twitter CEOのParag Agrawalが創業したParallel Web Systemsのエージェンティック検索が統合されている。
エージェント同士が自律的に連携する「コンポーザビリティ」
Dreamerの最も先進的な機能が「コンポーザビリティ」だ。すべてのエージェントは「Functions」を公開しており、他のエージェントやSidekickから呼び出せる。
Instagram共同創業者のMike Krieger(現Anthropic Labs責任者)との対談動画で示された具体例が分かりやすい。
- TechNews Proエージェントが注目記事を発見する
- Pocketableエージェント(後で読むアプリ)に記事が自動保存される
- 音声サマリーが自動生成される
- Sidekickがその内容をSlackに投稿する
この一連のフローは、事前に設計されたものではない。各エージェントがFunctionsを公開しているため、Sidekickが状況に応じて最適な連携を動的に組み立てるのだ。
さらに身近な例もある。「今夜ビーフブリスケットのチリを作りたいから、材料を買い物リストに入れて」とSidekickに頼む。するとSidekickはRecipe Bookエージェントからレシピを取得し、材料をGrocery Listエージェントに渡して売り場ごとに自動分類する。Recipe Bookにレシピがなければウェブで探し、Grocery Listエージェントがなければ代わりにGoogle Docsの買い物リストに書き込む。
Singletonはこの仕組みをUnixのパイプ(cat *.log | grep "ERROR" | sort | uniq -cのように単機能プログラムを連結する設計思想)に例えている。
Hugo Barraは対談動画の中で、「ソフトウェアが実行時に他のソフトウェアを生成・起動する」と表現している。
Dreamerが他のノーコードツールと根本的に違う点
LovableやReplit Agentのようなツールは、AIにコードを書かせた「アプリ」を1つ生成して終わりだ。完成後のホスティング、データベース管理、他サービスとの連携は、ユーザーが自分で面倒を見る必要がある。
Dreamerは違う。エージェントが動くために必要なものが、すべてプラットフォームに内包されている。
- スケジュール実行: 「毎朝7時に動かす」「新着メールが届いたら起動する」といった条件を会話で指定するだけ。cronジョブの設定は不要
- データベース: エージェントごとに自動でプロビジョニングされる。スキーマ設計もSidekickが行う
- リッチなUI: シンプルなリストから3Dゲームやアニメーション絵本まで、見た目もSidekickが構築する。デスクトップ・スマートフォン・Apple Watchに自動対応
- 外部サービス連携: Google Workspace、Slack、GitHubなどとの接続がツールとして用意済み
- AIの組み込み: 音声認識、画像生成、テキスト読み上げなどのAI機能が最初から使える
CEOのSingletonは、このアーキテクチャをスマートフォンのOSに例えている。iPhoneの上でアプリが動くように、Dreamerという「エージェントOS」の上でAIエージェントが動く。Sidekickがカーネル(中核)としてすべてを仲介し、Toolsがデバイスドライバとして外部サービスをつなぎ、Galleryがアプリストアとしてエージェントの発見・配布を担う。
SingletonはSemaforのインタビューで、Webブラウザがデスクトップの上に「もう一つのプラットフォーム」を築いたのと同じことが、AIエージェント領域で起きると語っている。Dreamerは、個々のエージェントを作るツールではなく、エージェントたちが住む環境そのものを目指しているのだ。
Dreamerへのアクセスにはウェイトリスト登録が必要
現在、Dreamerはパブリックベータ段階であり、ウェイトリスト制をとっている。
- dreamer.com にアクセスする
- メールアドレスを入力してウェイトリストに登録する
- 招待メールを待つ(ビルダー志向のユーザーが優先的に招待される傾向にある)

ベータ期間中は無料(extended free trial)で利用できる。ただし、Dreamerは有料製品であることが明言されており、トライアル終了前に通知が届く仕組みだと説明されている。具体的な料金体系はまだ公表されていない。
「誰もが自分のAIエージェントを作れる」時代の入口
Singletonのブログや対談動画から読み取れる今後の方向性は以下の通りだ。
- エージェントのApp Store構想: 開発者がエージェントを収益化できるインフラの構築
- ツールビルダーへの報酬: ユーザーサブスクリプションの一部をツール開発者に還元する仕組み。ベータ期間中もDreamer側が資金を投入して報酬を開始する予定
- プレミアムツールパートナーシップ: 商用サービスがDreamerのプレミアムツールとして参加し、ユーザーに無料トライアルクレジットを提供するモデル
- コミュニティ主導の開発: Discordコミュニティでの情報交換、ハッカソン、ウィークリーでのロードマップ更新
もちろん、ベータ段階のプロダクトであり、料金体系も未定、対応プラットフォームも発展途上という状態で、手放しで推奨するのは時期尚早だろう。
しかし、元Stripe CTO率いる創業チームの実績、8,400万ドルの資金調達、Anthropicとの深い連携、そしてアルファユーザーが証言する「99.9%のフリクションを除去してくれる」という体験を踏まえれば、注目に値するプロダクトであることは間違いない。
「AIエージェントを自分で作りたい」と思ったことがある人は、まずはdreamer.comでウェイトリストに登録してみてほしい。
招待が届いたら、Sidekickに「毎朝のニュースをまとめてポッドキャストにして」とでも話しかけてみれば、AIエージェントが自分専用のソフトウェアを作ってくれる時代を肌で感じられるはずだ。
