「LibreChat」は、ChatGPTとほぼ同じインターフェースで、この世に存在するほぼ全てのAIモデルを、1箇所でまとめて使える最強のAIチャットアプリである。
AI開発競争の激化で、OpenAIが開発するo1やGPT-4o、Anthropicが開発するClaude、Googleが開発するGemini、Metaが開発するLlamaまで、毎月のように新モデルが登場している。
いずれのAIモデルも、月額サブスクリプション制で月20ドルもの出費となるため、新モデルが登場するたびに課金していたら、AI破産してしまう。
しかし、性能の高いAIモデルが登場したのに、わざわざ性能の低い旧モデルを使い続けるのは、時間の無駄である。
そこで本記事では、コストを抑えながら、常に各社の最新モデル使えるようにする裏技を紹介する。
月額サブスク不要で、APIを利用した従量課金で、各社の最新のAIモデルとのチャットが利用できる「LibreChat」は、AI戦国時代の必須ツールだ。
APIと聞くと難しそうだが、プログラミング経験がない人でも、この記事のステップを真似していけば、自分のPCに「LibreChat」を導入することができるはずだ。
オープンソースチャットUI「LibreChat」の魅力
LibreChatは、チャット風のインターフェースを提供するブラウザ上で動作するアプリだ。
LibreChat自体は単なる箱であり、そこに、OpenAI、Anthropic、Googleなどが開発するAIモデルを使用するための「APIキー」を入力することで、各社のAIとチャットできるようになる。
OpenAI互換のAPIであれば、ユーザー自身でモデルを追加できるので、Groq CloudのLLama 3.3など最新のオープンソースモデルも利用できる。
最新のAIモデルを直ちに試したい、というユーザー必携のアプリだ。
以下は実際のLibreChatの画面だが、チャットスレッドごとに、Claude 3.5 Sonnet、OpenAI o1、Gemini Proなど、異なるAIと会話できていることが分かる。
同様のアプリとして、ChatbotUIやOpen WebUIなどが存在するが、最もインターフェースが洗練されており、アクティブに更新されているのが「LibreChat」だと思う。
API経由でAIチャットを使用する大きなメリット
APIキーとは、サービスを利用するためのパスワードのようなものだ。
APIキーを持っていると、OpenAIが提供しているo1, GPT-4o, GPT-4o-miniなどの各モデルを、自身が開発するプログラムの中に埋め込んで、従量課金で利用できるようになる。
このAPIキーを、LibreChatのようなアプリに入れれば、LibreChatアプリ上でo1やGPT-4oなどのモデルを呼び出し、会話の量に応じて、自分のアカウントに請求が来るようになるのだ。
APIキーの作成方法・導入方法は後で詳しく解説するとして、まずは、そもそもAPI経由でChatGPTやClaude、GeminiなどのAIサービスを利用する主要なメリットについて紹介する。
APIを3,800回使うと、やっと月額20ドルに達する
APIは、毎月固定のサブスク料を支払うプランとは異なり、利用量に応じて従量課金されるシステムだ。
まず気になるのは、「本当に月額20ドルのプランより、APIの方がお得なの?」という点だろう。
ChatGPTについて、月額課金の場合と、API利用の場合で、料金をシミュレーションしてみた。使用するモデルによって料金は異なるが、ここではGPT-4oモデルを前提とする。
- ChatGPT月額プラン:20ドル/月(固定)
- GPT-4oモデルのAPI料金:
- 入力トークン:$2.50 / 1M(100万)トークン
- 出力トークン:$10.00 / 1M(100万)トークン
ここでは、人間とAIの1回のチャットで、往復600トークン(入力100+出力500)を使用すると仮定する。ざっくり日本語では1,000文字以下くらいの文量だ。
ユーザーが100〜200文字くらいの質問をして、AIが原稿用紙1〜2枚分の返事をしてくる、というのは、現実的なシミュレーションと言えるだろう。
この仮定の下で、API利用で20ドルを使い切るためには、約3,800回の会話が必要になる。これは1日あたり約126回であり、かなりのヘビーユーザーだと言えるだろう。
大多数のユーザーは、1日に多くて数十回しか利用しないであろうし、仕事のある平日しか使わない人も多いだろう。
ほとんどの人は、APIを経由することで、月々わずか数ドルで、各社の最新のAIモデルを使うことができるようになるはずだ。
無料版のChatGPTやCopilotを仕事で使うリスク
APIは、企業や開発者による使用が想定されていることから、無料版と比べてセキュリティーも、プライバシーも、より安全性が高いと言って良いだろう。
AIチャットの無料版の多くは、ユーザーが入力した内容が、モデルの学習や改善のために内部的に利用・保管される可能性がある。
対して、有料APIプランやエンタープライズ向けプランでは、ユーザーデータを学習素材として再利用しない、あるいは一定期間後に自動削除するなど、より厳密で明文化されたデータ利用方針が提示されている。
実際、OpenAIは、APIを経由したチャットの内容は、学習データとして使用しないと明言している。
会社でAIアプリが導入されていない場合、黙ってChatGPTの無料版や、Bing ChatやCopilotを利用している人も、実際のところ非常に多いはず。
万が一、無料版を無断で使っていたせいで、自社の機密情報や個人情報を漏洩させたとあっては、大変なことだ。
毎月たった数百円を支払うだけで、より安全性の高いAPIを利用でき、こういったリスクを緩和することができるのは、大きなメリットである。
LibreChat を自分の Mac / PC にインストールする方法
それでは、実際にLibreChatをインストールする方法を紹介していく。最新のインストール手順は公式のセットアップガイド(英語)を参照することを勧めるが、以下ではそれを日本語で解説している。
筆者はMacで利用しているため、解説中のスクリーンショットはMacのものだが、ほぼ同様の手順でWindowsでもインストールが可能である。
LibreChatは、自分のPC上にインストールする他に、HuggingFaceやDigitalOceanといったリモートサーバー上で動作させることもできる。会社などでも、高額なChatGPTのTeamプランを契約することなく、社員に最新のAIモデルを利用させることができる利点がある。
この記事では、自分のMacやWindowsのローカル環境上で動かす方法を紹介する。
ステップ1:LibreChatのダウンロード
まずは、LibreChatをダウンロードしてくる。
オープンソースで開発されているので、GitHubでコードベースが丸っと配布されている。
ここでは、zipファイルでダウンロードしてくる方法と、gitコマンドを利用してダウンロードしてくる方法の2種類を紹介する。
プログラミング経験のない人の場合、前者の方が楽であろうと思われるが、後のステップで結局コマンドを使用するので、gitコマンドを使ってみるのもアリだ。
zipファイルを使ったダウンロード
まずはGitHubにあるLibreChatのレポジトリを開く。
右肩にあるグリーンの「Code」ボタンのプルダウンメニューで、「Download ZIP」をクリックする。
zipを解凍すると「LibreChat」フォルダが現れるので、自身のホームフォルダなど、分かりやすい階層に配置する。
Gitを使ったダウンロード
gitを使用する場合には、Macでは「ターミナル」アプリ、Windowsでは「ターミナル」「PowerShell」「コマンドプロンプト」などのアプリを使用して、コマンドを打ち込んでいく。
git clone
で、LibreChatのGitHubレポジトリを、自身のホームフォルダにコピーするだけだ。
git clone https://github.com/danny-avila/LibreChat.git
ステップ2:Docker Desktopの導入
コードベースはダウンロードできたが、今度はこれをDockerを使って使用できるようにする必要がある。
Dockerは、アプリの開発環境を丸ごと「コンテナ」として配布できる便利なツールだ。
ユーザーとしては、配布されたコンテナを丸っと再現することで、自分のPC内に、LibreChatが動作する仮想のサーバーのようなものを、コマンド一つで構築することができる。
Dockerを使用するには、まずは「Docker Desktop」というアプリをインストールする必要がある。
Docker Desktopは、こちらのダウンロードページにアクセスすれば、通常のMac/Windowsアプリと同様に、.dmg/.exeファイルを使って簡単にインストールすることができる。
インストールが完了したら、Docker Desktopを起動しておく。
この先、LibreChatを使用するためには、常にDocker Desktopが起動していることが必要になるので、終了することなくバックグラウンドで動かしておく。
ステップ3:Dockerコンテナの立ち上げ
再び、「ターミナル」などのコマンドラインツールを開き、cd
(change directory)コマンドで先程のLibreChatを保存したフォルダに移動する。
次のcp
コマンドは、APIキーなどの環境変数の設定ファイルのテンプレをコピーして、.env
という本番ファイルを作成している。
cd LibreChat
cp .env.example .env
.env
ファイルの中身には、OpenAIなど各社のAIモデルを列挙する箇所(下の画像の175行目など)があり、これを書き換えることで、不要なモデルを削除したり、新しく登場したばかりのモデルを追記したりして、カスタマイズできるようになっている。
ただし、インストールが終わった後に、アプリ上でもAPIキーの登録やモデルの選択は可能なので、わざわざこのファイルを編集しなくても使用できる。
以上で準備は完了で、ターミナルに次のdocker compose
コマンドを打ち込んで、いよいよLibreChatが起動できる状態になる。
docker compose up -d
コンテナの起動が完了するまでには結構時間がかかる。
ターミナル上に表示された進捗バーなどが100%になったら、Docker Desktopを開いてみる。コンテナ一覧に、「librechat」というコンテナが表示されていたら成功だ。
LibreChatは、このコンテナが動作している間、以下のURLをブラウザで開くと使用することができる。
ステップ4:初回起動〜アカウント作成
http://localhost:3080/を開くと、以下のようなログイン画面が表示される。LibreChatは、会社のサーバーにインストールして、社員一人一人にアカウントを作らせて使用するような用途も想定されているので、アカウント機能も実装されている。
今回は、自分のPC上にインストールしているので、アカウントは自分1人しかいない。
「Sign Up」をクリックして、メールアドレス、パスワードを入力してアカウントを作成する。
適当なメールアドレスでも登録はできるが、後でログイン方法を忘れるとチャット履歴を見れなかったり不便なので、一応ちゃんと設定した方が良い。
ログインが完了すると、ChatGPTのインターフェースをそのまま再現したようなチャットUIが表示される。
これでLibreChatを自分のPC上で使用できるようになった。
あとは、各社の AIモデルのAPIキーを登録して、使用できるようにするだけだ。
ステップ5:次回以降の起動&アップデート方法
通常のアプリのインストールと違って、Dockerでコンテナを動作させているので、どのようにバージョンのアップデートや、再起動を行えばいいのか戸惑う人も多いだろう。
実際、パソコンを再起動した場合に、コンテナも終了してしまって、LibreChatが起動できなくなったりする。
ここでは、念の為、LibreChatをPC再起動後に再び使うための手順や、バージョンアップ作業の方法などを解説しておく。
PCを再起動した際の挙動
繰り返しになるが、LibreChatを使用するには、常にバックグラウンドでDocker Desktopの「librechat」コンテナが動作していることが必要だ。
PCを終了すると、Docker Desktopも終了してしまい、コンテナが停止するため、PCの再起動後にhttp://localhost:3080/にアクセスしても、以下のようにエラーが出てしまう。
再びLibreChatを利用可能にするには、とにかくコンテナを動作させれば良いので、Docker Desktopアプリを再び起動するだけでよい。
Docker Desktopを再起動すると、自動的に以前作成したコンテナが再稼働して、LibreChatが復活するはずだ。
バージョンアップデート
バージョンの更新は、再び「ターミナル」などのコマンドラインツールを使用する必要があり、少し面倒だ。
まず、ターミナルを開いて、cd
(change directory)コマンドを使用して、LibreChatをダウンロードしたフォルダに移動する。
そして、現在動作しているDockerコンテナを終了するコマンドを打ち込む。
cd LibreChat
docker compose down
すると、Docker Desktop上に存在したlibrechatコンテナが停止して削除される。
次に、GitHub上のコードベースの更新された箇所をダウンロードしてくるgit pull
コマンドを使用してコードを更新したら、再びdocker
コマンドでコンテナを作成し直す。
git pull
docker compose pull
docker compose up
以上で、最新のアップデートが反映され、再びhttp://localhost:3080/にアクセスすることで、LibreChatが利用できる。
git pull
では、新バージョンの差分だけがインストールされるため、これまでのチャット履歴などは削除されないので安心だ。
LibreChatに好きなAIモデルを入れる方法
LibreChatが無事に起動できたら、今度はいよいよ各社のAPIキーを登録して、モデルを利用可能にする必要がある。
たとえば、OpenAIのモデルを使用するには、OpenAIの開発者アカウントを作成して、APIキーを発行する。
同様に、Google GeminiのAPIキー、AnthropicのAPIキー、Groq CloudのAPIキーなど、それぞれの使用したいサービスのAPIキーを入手する必要がある。
本記事では、ユーザーが多いであろうo1やGPT-4oなどを使えるOpenAIと、Claude 3.5 Sonnetなどを使えるAnthropicのAPIキーの作成・登録方法を解説する。
ちなみに、当然ながら、どの会社のモデルを使う場合でも、各社のアカウントにカードを登録して、API利用料金をチャージしておかなければ、残高不足のため、チャットを利用することはできない。
まずは5ドル程度、少額でいいのでチャージして、LibreChatの使い心地を試してみてはどうだろう。
超ヘビーユーザーでもなければ、たった5ドルであっても、使い切るには結構な日数がかかるだろう。
ChatGPT(GPT-4o, GPT-o1)をLibreChatで使う
OpenAIの開発者プラットフォームにアクセスして、アカウント登録・ログインを行う。間違えてChatGPTにログインしないように気をつけよう。
アカウントにログインできたら、「ダッシュボード」の左側メニューの「API keys」をクリックし、右上のグリーンのボタン「Create new secret key」をクリックする。
すると、以下のように新しいAPIキーを作成する画面になるので、「LibreChat」など分かりやすい名前をつけて保存する。
作成したAPIキーは、一度しか表示されないので、必ずコピーしておくこと。
もし忘れてしまっても、既存のキーを削除して、もう一度作り直せば良いだけなので、それほど致命的ではないが。
APIキーを控えたら、LibreChatのチャットウィンドウ左上にあるAIプロバイダのプルダウンメニューから、OpenAIにカーソルを合わせ「Set API Key」をクリックする。
APIキーの有効期限を設定できるので、期限切れなしの「Expires never」を選択した上で、先程作成したOpenAIのAPIキーをペーストして「Submit」をクリックする。
これで、無事にOpenAIが提供するAIモデルを、LibreChat上で使用することができるようになった。
モデルをプルダウンメニューで選択することができ、最新のGPT-4oモデルやGPT-4o-miniモデルを含め、歴代のモデルを呼び出すことができる。
このモデルプルダウンメニューの選択肢は、.env
ファイルを書き換えることで変更できる。
たとえば、最新のo1-preview
やo1-mini
など、LibreChatにはまだ反映されていないモデルを使用したい場合は、以下のように.env
ファイルのOpenAIのモデルリストを書き換える。
OPENAI_MODELS=gpt-4o,chatgpt-4o-latest,gpt-4o-mini,o1-preview,o1-mini
これによって、LibreChatのモデル選択メニューに、追加した「o1-preview」が現れていることが確認できた。
これ以外にも、さらに将来登場した新しいモデルも、どんどん登録していくことができる。
AnthropicのClaudeをLibreChatで使う
次に、Anthropicが開発するClaudeシリーズをLibreChatで利用する手順を解説する。
ただし、ClaudeであろうがGoogle Geminiであろうが、APIキーの発行手順はほぼ同じである。
Anthropicの開発者向けページからアカウントを作成し、設定画面を開く。
「API keys」メニューから「Create Key」をクリックして、APIキーを保存する。
OpenAIのAPIキーを登録した時と同じ手順で、チャットウィンドウ左上の会社名のプルダウンメニューから、Anthropicにカーソルを合わせ、「Set API Key」から先程作成したAPIキーを保存する。
これで、OpenAIとAnthropicのすべてのAIモデルを、LibreChatの一つの画面から呼び出せるようになった。
APIによって月額利用料を節約できるだけでなく、一つのインターフェースで、タスクごとに各社のAIモデルを使い分け、それぞれの得意分野や苦手分野を補い合うことができるので、とても便利だ。