ChatGPTをはじめとするAIチャットツールを、実務に活かせている、と言える人はどれだけいるだろうか。
話題のChatGPTだが、会員登録だけはしたものの、具体的な活用方法が見つからず、眠らせたままになっている人も多いのではないか。
昨今は、OpenAI社のChatGPT、Anthropic社のClaudeなど、超強力なAIチャットツールが次々登場し、しかもそれらが日々アップデートを重ね進化している。
半年前に試した時はAIの回答がイマイチだったことも、久々に試すとAIが完璧な回答をくれる、なんてことも頻繁に起こる。
本記事では、AIにキャッチアップしきれていないビジネスパーソンのために、ChatGPTを活用して身近な業務を効率化・改善する方法を紹介する。
メールの下書き、Excelのデータ分析、ブレインストーミングまで、ChatGPTは適切に使用すれば、ビジネスシーンにおける強力な味方となる。
本記事では、実例とともに活用術を紹介するとともに、そのままコピペして使えるプロンプトの例も紹介していく。
画像やPDFから文字, 表, グラフを読み取る
ChatGPTなどの生成AIチャットツールの、あまり知られていない活用法の一つは、画像の認識である。
「画像認識」というと、写真などを読み込ませ、人の顔や風景を認識させるような用途が思い浮かぶ。
しかし実は、テキストを含む画像からの文字認識、コピペできないPDFからのデータ・グラフの読み取りなど、ビジネスシーンで非常に役立つ使い方があるのだ。
例えば、プレスリリースやPDF資料の中に含まれる画像形式のグラフやテーブルを、自分でExcelに入力して再現したい、ということがよくある。
そんな時は、スクリーンショットした画像を添付して、ChatGPTに以下のように質問してみると良い。
添付画像は、複数の大規模言語モデルのベンチマークスコアをグラフに整理したものである。これをMarkdownテーブル形式に変換せよ。
このプロンプトは、「添付した画像の説明」と「変換してほしい形式」を伝える構成になっている。
すると、指示通りにグラフの画像を読み込んで、数値を表形式に整理してくれた。これを自分で手作業で行うと非常に時間がかかるので、AIが作業を代行してくれると非常に助かる。
このプロンプトを必要に応じて書き換えれば、csvファイルに変換せよ、など、自分好みの形式を指定して文字起こしさせることも可能だ。
注意点としては、与えたスクリーンショットの文字のサイズが小さかったり、グラフやテーブルの構造が非常に複雑だったりすると、数値の読み取りが間違っていることがよくある点だ。
多少ミスがあっても、自力でゼロから手打ちするよりは大幅に楽だ。
必ず、AIが出力した結果を自分の目でもダブルチェックして、間違いがないように気をつける必要がある。
スレッド履歴を渡してあらゆるメールを代筆させる
ChatGPTの日本語力もどんどん向上しているので、もはや人間がメールを書く必要はなくなりつつある。
ChatGPTにメールの代筆を頼むにあたっては、①前後の文脈を提供すること、②メールに含むべき情報を明示すること、の2点が重要になる。
相手から来たメールをChatGPTに渡すことで、文脈を理解した上でAIが文案を考えてくれるので、より実用的な結果が得られる。
また、箇条書きでもいいので盛り込むべき情報を列挙しておけば、それをAIが良い感じの文章に整えてくれる。
具体的には、以下のような構造のプロンプトで、ChatGPTにメールの代筆を頼むとよい。
<instruction>
以下のメール履歴を踏まえて、支払いの遅れに関する謝罪と、9月末日までに支払う旨の返信メールを作成してください。
</instruction>
<メール履歴>
過去のメール履歴をここにコピペ
</メール履歴>
ポイントは、AIへの指示と、参考資料としてのメール履歴を、明確にブロック分けして伝えていることだ。
<instruction>ほげほげ</instruction>
というように、<開始タグ> </終了タグ>
という形式で、文章をブロックごとにまとめることで、AIに対して、どこからどこまでが指示で、どこからどこまでがメール履歴なのかを明示している。
すると、ChatGPTが、バッチリ返信メールを書き上げてくれた。
なお、ChatGPTにメールの履歴を入力する際には、メールアドレスや氏名などの個人情報は削除してから入力すべきだ。
Wordなどにメールのスレッドを貼り付けて、「検索と置換」機能を使って、文中に登場する全てのメールアドレスや氏名を一括で削除してしまうと良い。
Excel・スプレッドシートの関数を作ってもらう
ChatGPTは、ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトの計算式を書くのも非常に得意だ。
IF条件を組み合わせ計算式や、COUNTIFやVLOOKUPなどの若干複雑な関数を使った計算式など、使い方を覚えておくのが面倒なことも、全てChatGPTが代わりに考えてくれる。
ChatGPTに作業中のExcelシートの様子を的確に伝えることで、そのままコピペして使える計算式を考えさせることができる。
ChatGPTにExcelやスプレッドシートの計算式を考えさせるときに重要なポイントは以下の2点である。
- シートの構造を伝える(A列にXX・B列にXXが入力されている、2行目からデータが始まる、など)
- データの入力形式の例を与える(A列には日付が「2024-09-01」という形式で記録されている、など)
以下のプロンプトをコピペして、自分のExcelファイルの内容に合わせて書き換えると良いだろう。
以下のExcelシート構造に基づいて、営業担当者別の売上合計を集計する関数を提案してください:
シート構造:
B列: 営業担当者名(例:田中)
E列: 売上金額 (数値)
※データは2行目から開始
必要な分析:
営業担当者別の売上合計値の集計
使用する列や具体的な数式を含めて、この分析に最適な関数を説明してください。
すると、そのままコピペして使用できる計算式=SUMIF(B:B, G2, E:E)
を掲示してくれつつ、関数の動作の解説をしてくれた。
Excelやスプレッドシートが苦手だった人も、ChatGPTへのプロンプトのコツさえマスターすれば、どんな複雑な計算であっても詳しい解説を読みながらコピペで実装できてしまう。
ChatGPTをマスターしているか否かが、生産性の大きな差を生みうるのだ。
読むのが面倒なPDFや英文を要約してもらう
ChatGPTは、文章の要約も非常に得意である。
しかも多言語にも対応しているので、英語でも、中国語でも、フランス語でも、ロシア語でも、あらゆる文章を日本語で要約してくれる。
テキストをコピペするだけでなく、添付ファイルとしてPDFを渡し、PDFの中身を読み取らせることも可能なので、ありとあらゆる文章の要約・翻訳が可能だ。
例えば、最新の英語のニュースの内容を、ざっくり日本語で把握したいとする。
米国大統領選挙に向けたトランプ氏の中絶問題周りの発言に関する英文のニュース記事をPDFにして添付し、要約してくれるように頼んでみる。
添付のニュース記事を、日本語の箇条書きで要約してください。
たったこれだけのシンプルなプロンプトで、記事の内容を日本語でわかりやすく箇条書きに整理してくれた。
ChatGPTの登場によって、あらゆる分野のリサーチ業務や、最新ニュースへのキャッチアップが、非常に容易にできるようになってしまったのだ。
アイディアのブレストをしてもらう(タイトル、キャッチコピー、広告、SNS投稿などの作成)
ChatGPTに、キャッチコピーやタイトルなど、クリエイティブなテキストを考えてもらおうとして、納得いくクオリティにならずに断念した経験がある人は多いのではないだろうか。
どんなプロンプトでも、一発で理想の回答が得られることは少ない。
ChatGPTを使いこなす上で重要なのは、いったん大量のパターンを考えさせた上で、一番理想に近い方向に導いていくテクニックである。
あらゆるプロンプトの末尾を、「〜の案を10個考案せよ」とか、「〜を5パターン作成せよ」とか、とにかく複数の案を出させるようにしておくのがオススメだ。
その中で理想に近い案があったら、「3番目の案が気に入ったので、これに似た案を更に5つ考案してください」などとして、ゴールに近づけていく。
ここでは一例として、プレスリリースの内容からFacebook広告の文案を作成する、というマーケティングチームでありそうな業務につき、使えるプロンプトを紹介する。
添付のプレスリリースの内容に基づいて、この花火大会の有料参加者を募集するFacebook広告の文案を5パターン作成せよ。
短いもの、長いもの、フランクなもの、フォーマルなものなど、各パターンのスタイルに差異を設けること。
{添付ファイル(PDF、テキスト、Wordなど)}
ここでのポイントは、ChatGPTに5つの案を出すよう指示するとともに、その5つに異なる方向性を与えることで、多様なパターンを検証している点である。
同様のアプローチは、広告文案の作成以外にも、XなどのSNS投稿文案を作成させたり、プレスリリースを考えさせたり、アイディアや創造性が求められるさまざまなタスクに応用できる。
以下のイベントの参加申し込みを募集するため、Xで投稿を行う。140文字以内の投稿文案を3パターン考案せよ。
{# イベント情報}
ここにイベントの概要テキストをコピペ
イベントの開催に関するプレスリリースのタイトル案を10個考案せよ。添付ファイルにある過去のプレスリリースの実際の例を踏まえ、スタイルや文体を踏襲すること。
{# イベント情報}
ここにイベントの概要テキストをコピペ
{添付ファイル(PDF、テキスト、Wordなど)}
アジェンダやドキュメントの骨子を考えてもらう
ミーティングのアジェンダ、社内の稟議、コンペの提案依頼書など、ドキュメントを0から自分で書くのは時間がかかる。
ChatGPTは、そういったドキュメントの下書きを書かせるのにも非常に向いている。
AIが生成したドキュメントがそのままでは使えなかったとしても、下書きがある状態で手直しすると、0から始めるより圧倒的に完成までのスピードが速い。
いわば、新入社員の部下にドキュメントを作らせて、先輩の自分が手直しするようなものだ。何回文句をつけてやり直させても、AIはヘソを曲げることがないので、人間よりもむしろ便利だ。
ただ、あまりにフワっとしたプロンプトだと、自分の期待するより文章が長すぎたり、逆に単純すぎて使えなかったりする。
そのままドキュメントの骨子として使えるレベルの実用的な回答を引き出すには、例えば以下のような点に配慮してプロンプトを作成することが推奨される。
- 背景の文脈を伝える(業界や職種、プロジェクトの内容など)
- 回答に含んで欲しい要素や情報は明示する(「週単位の計画を」「実例とともに」など)
- 制約条件を伝えておく(ページ数、文字数、「〜分以内で説明できる量」など)
- 出力形式を指定する(アウトライン、箇条書き、段落形式など)
- ドキュメントの読者を明確にする(中学生に対して、経理部門の管理職に対して、など)
- 段階的に進める(まずアウトラインを作る→その後1項目ずつ詳細を作る、など)
例えば、あなたが総務の研修担当者だと仮定して、新入社員のための1ヶ月の研修プランを考えてみる。
職種などの背景情報を与えながら、含むべき研修を列挙しつつ、ChatGPTに研修プランを考えさせてみた。
総務部門の新入社員のための1ヶ月間の研修プランの概要を作成してください。
プランには、オリエンテーション、社内外のトレーニングの受講、主要な関係者との面談、メンターとの関係構築、進捗確認ミーティングを含める必要があります。
各週の推奨活動と、新入社員の主要な目標も示してください。
すると、下書きとして使うには十分いけそうな、研修プランが出力された。
これをWordにコピーして自分で手直しすれば、大幅に業務時間を短縮できることだろう。
プレゼンに使えるグラフを作ってもらう
ChatGPTには、ExcelやGoogleスプレッドシートのファイルをアップロードして、データ分析やグラフ作成をさせることすらできてしまう。
この機能は、ChatGPTが登場したばかりの頃は実装されていなかったが、その後、データ分析機能が追加され、プレゼン資料に載せるグラフを0から作ってもらうこともできるようになった。
分析機能を使うには、ChatGPTとのチャットウィンドウで、添付ファイルとしてExcelやGoogleスプレッドシートのファイルを指定すればいいだけだ。
例えば、今回はGoogleドライブ上に保存したスプレッドシートから、売上の推移グラフを作成してみる。
当サイトで過去にデータ分析機能を紹介した際と同じ、米国のスーパーの売上データを例として使用する。
Googleスプレッドシートに、全米のスーパーの売上履歴が注文ごとに記録されているデータだ。
このテーブルに基づいて、売上金額を月毎に合計し、年間の推移をグラフ化したいとする。
非常にシンプルなプロンプトで、非常に簡単にこの分析を実現できてしまうのがすごいところだ。
地域ごとに、2016年の月毎の売り上げの推移を折れ線グラフにしてください。
{添付ファイル:Googleスプレッドシートをリンク}
すると、見事に折れ線グラフが生成された。
注文データを月毎に集計し、さらにそれを地域別に分けて、時系列のグラフを生成する、という何ステップにも及ぶグラフ作成作業を、プロンプト一発で実現できてしまうのだから驚かされる。
ちょっとしたグラフを、さくっとChatGPTで作成することができれば、資料の作成スピードは大幅に向上する。
想像以上に簡単なので、ExcelやGoogleスプレッドシートに苦手意識があった人も、ChatGPTを組み合わせてぜひデータ分析やグラフ作成に積極的に挑んでみることをお勧めする。
ChatGPTのデータ分析機能の詳しい使い方は、当サイトの以下の記事も参考にしていただきたい。
プレゼンに使えるイラスト素材を作ってもらう
ChatGPTは、DALL-E 3というイラスト生成AIも呼び出してくれるので、作成したいイラストの指示をすれば、瞬時に望み通りのイラストを生成することも可能だ。
以下のように、自分のスライドに合わせたデザインの方向性を指定して、生成したいイラストを指示すると、いい感じの絵がダウンロード可能になる。
プレゼンテーションをしている女性のシンプルでフラットなベクター素材風のイラストを生成せよ。
ここでは、プレゼン資料に入っていそうなフラットなベクター素材を生成して欲しい旨を表現してみた。
すると、ビジネス系の資料によくある感じのイラスト素材が生成された。
「いらすとや」などでフリー素材を探してくるよりも、必要な素材をChatGPTに指示したほうが、より速く効率的に画像の探索が終わる。
イラストはもちろんのこと、プロンプト次第で、写真や背景グラフィックなども生成可能なので、活用の幅は非常に広い。
まだChatGPTの画像生成機能を使ったことがない人は、ぜひ一度試してみることをお勧めする。
たくさん試して、自分なりの使い道を見つけよう
これだけ話題になっているChatGPTをはじめとする生成AIだが、まだまだ人によって生成AIツールを使う頻度は大きく異なっているだろう。
たとえ会社でChatGPTの有料アカウントを付与されていても、イマイチ使いこなせていない、という人も多いかもしれない。
毎日のようにChatGPTを使いこなしている人たちに共通しているのは、どんなタスクでも、一回AIにやらせてみよう、という試行錯誤の意欲や気持ちがあることだ。
一発で期待通りのアウトプットが得られることは少ないが、そこで「全然使えないじゃん!」と投げ出してしまっては非常に勿体無い。
本記事で紹介したように、プロンプトの構造を工夫したり、パターンを複数考案させたり、様々なテクニックを自分のユースケースに当てはめてみることによって、真に実用的なアウトプットを得るコツが掴めてくるはずだ。
様々な仕事道具やソフトウェアと同じく、生成AIもまた、使い手側の人間の熟練やスキルを要するツールの一つなのだ。
本記事をきっかけに、これまでと違うChatGPTの引き出しを開けてみて、そのポテンシャルを最大限に引き出せるか、ぜひ色々と試行錯誤してみて欲しい。