Google版のChatGPTにあたる大規模言語モデルとのチャットサービス「Gemini」には、月2,900円で最新・最高精度のモデル「Gemini 1.5 Pro」を利用できるプラン「Gemini Advanced」がある。
「Gemini」の強みは、Googleの提供するGmail、Googleドキュメント、Googleスプレッドシート、Googleスライドなどの定番のオフィスサービスと接続・統合されていることだ。
日本ではまだ利用できないが(2024年5月末時点)、英語版の「Gemini Advanced」には、Gmailのメールを代筆してくれたり、Googleスプレッドシートの構成を代わりに作ってくれる機能がある。
メールやドキュメントを書く作業、スプレッドシートを整理する作業、スライドでプレゼンテーションを作る作業などを、人間の代わりにAIが代行してくれる世界が既に到来しているのだ。
そんな最新の魅力的なAI機能を、日本にいながら使う方法が実は存在する。
本記事では、日本未公開の「Gemini」によるGmail、Google Docs, Sheets, Slidesの作成補助機能を日本から使う方法と、実際に使ってみた様子を詳細に解説していく。
2ヶ月間は無料!Gemini Advancedを試してみよう
Googleが提供する課金サービスである「Google One」は、通常はGoogleドライブの容量を増やす等々のために課金するものだが、「Google One AI プレミアムプラン」というGemini 1.5 Proを利用するためのプランが存在する。
「Google One AI プレミアムプラン」は、月々2,900円で、「Gemini Advanced」が利用できるようになるほか、Googleドライブの容量などおまけが色々とついてくる。
同プランに含まれる特典は次の通りである。
- Gemini Advanced
- Geminiの最上位モデルであるGemini 1.5 Proを使用可能
- 100 万トークンのコンテキストウィンドウ
- PDF 1,500ページ程度のテキスト量に相当
- 1時間程度のビデオの音声書き起こしも可能
- ファイルアップロードなどの追加機能
- CSVなどのテーブルデータの分析・グラフ化
- PDFなどの文書ファイルの読み込み
- その他のおまけ
- Googleドライブの2TBの容量
- (英語版のみ)Gmail, Google Docs, Sheets, SlidesでGeminiが動く
ライバルのOpenAIが開発するChatGTP Plusが、同じ価格帯(月20ドル)であることを考えると、Googleドライブの2TBもの容量がおまけでついてくるGemini Advancedはそれなりにお得感がある。
しかも、Gmailをはじめとするオフィススイートを抱えているGoogleだからこそ、既存アプリと高度に統合されたAI機能の利用が可能なので、試してみる価値はある。
最初の2ヶ月間はトライアルで無料で利用でき、自動更新される前に解約をすれば一切課金なしで最新のGemini 1.5 Proの力を感じられるので、ぜひ登録してみてほしい。
Googleアカウントの言語設定を英語にする方法
日本における「Google One AI プレミアムプラン」と「Gemini Advanced」の最大の欠点は、AIによる業務効率化の恩恵を最も受けられそうなGmail, Google Docs, Sheets, Slidesでの「Gemini」の使用ができないという点に尽きる。
記事執筆時点(2024年5月末)では、英語版のユーザーにのみAIによる補助機能が開放されており、日本語版ではGmailのメール作成補助機能も、ドキュメントやスプレッドシートの編集補助機能も使えない。
しかし幸いにして、Googleアカウントの設定をちょっと変えるだけで、日本からも英語版を使える裏技がある。
Googleアカウントにログインした状態で、「Googleアカウントを管理」をクリックして、アカウント設定メニューを開く。
「個人情報」メニューの下部に、Googleサービス全体での言語設定を変更することができる箇所がある。
ここで、メインの言語を「English (United States)」にすれば、Gmail、Googleドキュメント、スプレッドシート、スライドなど全てのツールが英語になる。
VPNなどを使用しなくても、アカウントの言語設定さえ英語になっていれば、Geminiの英語限定の機能を使うことができてしまう。
ただし、無理やり英語化してGeminiを有効にしたとしても、Geminiの文章作成補助機能は、全て英語にしか対応していないので、恩恵を受けるためには自分が書くメールや文章も全て英語にする必要がある。
現時点では実用性は低いかもしれないが、どのような機能が利用できるのかのプレビューをすることができる。
以下では、筆者が実際に英語限定のGoogle WorkspaceとGeminiの連携機能を、実際に使ってみた様子を紹介する。
MicrosoftがExcelやWordなどのOfficeや、Windowsに導入しているCopilotと似たようなことが、Googleのサービス内でもできるようになるかもと期待させてくれる。
Gmailの執筆補助機能
なんといっても目玉は、Gmailのメールの作成補助機能だろう。
非エンジニアのビジネスパーソンを含めて、最も多くの人にとって影響が大きいであろう「メール」の執筆や編集を、Gmailの中で、高性能なGemini 1.5 Proに直接サポートしてもらえる恩恵は非常に大きい。
Gemini Advancedを契約し、アカウントの言語を英語にした状態で、Gmailを開いて新規メールを作成すると、画面下部に以下のような「Help me write」というGeminiを呼び出すためのボタンが表示される。
ここで、どのようなメールを書きたいかを文章で伝えると、Gemini 1.5 Proがきちんとしたメールを代筆してくれる。
実際に、アパートの賃貸契約を解約するための大家へのメール文を書きたいとGeminiに伝えてみると、見事に型式を整えたメール文の雛形が生成された。
Gmail上の「Help me write」でGeminiに与えたプロンプトは以下の通りだ。
I want to inform the management company of the apartment I live in that I want to terminate my lease next month.
(住んでいる部屋の管理会社に対し、賃貸契約を来月で解除したいと伝えたい)
すると、以下のようにメール案が表示され、「Insert」ボタンをクリックすることでその文案を反映できる。
新規でのメールの下書きの際も、すでにあるメールの再編集の際も、「Formalize(フォーマルな文体にする)」、「Elaborate (詳しくする)」、「Shorten(短くする)」など、文体や文章のスタイルを追加で変更することができる。
例えば、身近な人へのメールの文案を、短く簡素にするために「Shorten」を選択すると、元のメール文案よりカジュアルな文章に改変してくれた。
Googleドキュメントの執筆補助機能
Google Docsにも、Gmailの執筆補助と似たような機能が実装されている。
ドキュメントを開くと、Gmailと同じく「Help me write」というGemini 1.5 Proによる執筆補助のメニューが表示される。
ここで、どのような文章を作成しようとしているかをGeminiに伝えてみる。
イベントの開催に向けて、準備せねばならないことを整理したい、というプロンプトを与えてみた。
Organize the necessary preparations to hold an online symposium for students in Japan on AI
(AIに関する日本国内の学生向けのオンラインシンポジウムを開催するために必要な準備の整理)
すると、イベントの開催に向けて考慮すべき・決定すべき事柄が、瞬時に箇条書きで生成された。
ビジネスミーティングの前などに、ミーティング内で検討しなければならない事項のリストを、AIの補助を受けながらサクッと作成することができる。
もちろん、ChatGPTのGPT-4oや、Claude 3 Opusなど、他社の高性能なチャットAIを使っても似たようなことはできるのだが、Googleドキュメントの画面内で容易に実行できるというのがGemini 1.5 Proにしかできない大きな強みだ。
また、ゼロから文書を生成するだけではなく、既にある文章を選択すると、フォーマル/カジュアルな文体を切り替える、要約する、箇条書きにする、短くする/長くする、言い換えるなどの編集を加えることもできる。
Grammarlyなどの英文の文法をチェックしてくれるアプリは広く使われているが、Geminiのような大規模言語モデルが校閲から編集からなんでもできるようになって来ているので、文法チェックも、文章の構成の改善も、なんでもGeminiで完結してしまう日は近そうだ。
Googleスプレッドシートのテンプレート作成機能
Googleスプレッドシート上でも、Geminiを呼び出して、希望のデータ構造などをプロンプトで伝えると、シートのテンプレートを作成させることができる機能が実装された。
例えばバイトのスタッフを管理するための勤務表や、部署でのプロジェクト管理の進捗表、家族での家計簿など、さまざまな表の雛形を、Gemini 1.5 Proが作成して、サクッとスプレッドシート化してくれる。
例えば、イベントの開催に向けた準備の進捗状況を管理するためのチームのタスク表を作ってもらうように依頼してみると、結構実用的な表が一発で出力された。
Progress chart of preparations needed to organize an online symposium for students in Japan on AI
(AIに関する日本国内の学生向けのオンラインシンポジウムを開催するために必要な準備の進行管理表)
非常にシンプルなプロンプト文なのでほぼGemini 1.5 Proによるアドリブだが、タスクの一覧と、タスクごとの期限日、優先度、担当者、進捗状況、備考が生成されている。
Googleスプレッドシートを仕事で多用している人は、将来性が非常に期待できるアップデートだろう。
Googleスライドのイラスト生成機能
Googleスライドには、Gmailやドキュメントのようなテキストの生成機能ではなく、イラストの生成機能が備わっている。
Gemini Advancedに課金して、アカウントの言語を英語にした状態で、Googleスライドを開いてみると、「Insert」メニューの「Image」から、画像ファイルを指定するだけでなく、Geminiを使って画像を新たに生成できる画面になる。
ここでプロンプトによって指定したイラスト素材などを、瞬時にGeminiが生成してくれるので、それをクリックするだけでプレゼン資料にイラスト素材を挿入できる。
フリーの画像やイラスト素材を探したり、ベクターデザインを用意したりといった手間が大幅に短縮でき、AIに望みのイラストを生成させながらプレゼン作成を進められるので、仕事の効率化が可能だ。
実際に、シンプルな自転車のデザインを生成させてみた。Geminiには、以下のように、ミニマルでフラットな自転車のベクターデザインを生成するように指示した。
Minimalistic and flat vector design depicting a bicycle
すると、すぐに4枚の自転車の画像が表示されて、最もイメージに近かった画像をクリックするだけで、プレゼンテーション資料にその画像を貼り付けることができた。
プレゼン資料を作成する際に、自分がイラストレーターやデザイナーでなければ、基本的には図やイラストはフリー素材を調達してくるしかない。
「いらすとや」などのフリー素材をネットで探して、貼り付けている人も多いのではないだろうか。
Geminiに画像も作らせることができれば、いちいちフリー素材を探し回らなくても、プロンプト文で望みの画像やイラストを伝え、色やアートスタイルを統一して生成させれば、統一感のある高クオリティのプレゼン資料を作成できる。
Geminiの機能強化・日本上陸による生産性向上に期待
以上で紹介してきたように、GmailやGoogle Docs、SheetsといったGoogleのオフィススイートに、高性能なAIモデルであるGemini 1.5 Proが組み込まれ、業務の効率化をもたらしてくれるという夢物語が、既に現実となっている。
Gmailの執筆補助機能が日本語に対応したら、もうこの先、自分でゼロからメールを書くことは無くなってしまうのではないかとさえ思える。
他社の高性能モデルを利用できるChatGPT PlusやClaude 3 Proを使っても、もちろんメールの下書きを行わせることはできるのだが、背景事情を説明し、相手のメールをコピペし、ChatGPTが考案してくれた文案をGmailにコピペして、といった感じで、どうしても余計な手間がかかってしまう。
Gmailの画面上で、サクッとAIに返信させることができるようになったら、その生産性向上効果は計り知れない。
この先、Googleスプレッドシートのピボットテーブルやグラフ作成など、より高度な機能についてもGeminiの統合が進めば、Google Docs, Sheets, Slidesなどのオフィススイートの価値が大きく向上しそうだ。
この後の機能のアップデートと、日本語への対応に期待したい。