2025年6月5日、OpenAIがChatGPTの複数の新機能をリリースした。いずれも、ChatGPTを、ビジネスシーンで本格的に役立つツールへと大幅進化させるアップデートだ。
これまでも、ChatGPTには、Web検索機能や、より長い時間をかけ深いリサーチを行うDeep Research機能が備わっていた。
しかし、これらの従来機能は、いずれも一般公開されているウェブ上の情報を検索しているだけで、社内や個人のプライベートデータにはアクセスできていなかった。
今回発表された新機能「Connectors(コネクタ)」は、Dropbox、Google Drive、SharePoint、Githubなどなど、社内や個人のサードパーティアプリとChatGPTを安全に接続して、企業のドキュメントやメッセージ、顧客データなどにAIが直接アクセスし、検索やデータ分析の実行を可能とする機能だ。
このアップデートによって、ChatGPTが「実務で使えるAI」へと飛躍的に進化することが期待される。
例えば、以下のような作業が、ChatGPT上で完結するようになる。
- チームの共有ドライブ内での調べものを数秒で完了(検索コネクタ)
- 社内の複数ソースを横断したDeep Researchで、計画書や報告書を自動生成(Deep Research コネクタ)
- Google Driveを事前同期し、ChatGPTのナレッジベース化(Syncedコネクタ)
- ミーティングを録音し、自動で文字起こし・議事録化(Record Mode)
本記事では、今回OpenAIが発表したビジネス機能群の詳細を、実際の使い方とあわせて詳しく解説する。
本記事で紹介する「Connectors(コネクタ)」と「Record Mode(レコードモード)」を使いこなすことで、ビジネスでのAI活用を一気に進めることができるはずだ。
ChatGPT「Connectors(コネクタ)」機能の概要
Connectors(コネクタ)機能は、ChatGPTをクラウドストレージやCRMなどのサードパーティアプリと安全に接続する機能である。
従来であれば、チャットの中で一々ファイルをアップロードしなければならなかったところ、Connectors を使って事前に接続を許可しておけば、ChatGPT自身が企業の内部データに直接アクセスし、リアルタイムで情報を取得・参照して回答を生成してくれる。

コネクタには、4つの種類が存在し、それぞれ実現できることが異なる。
コネクタの種類 | 概要 |
---|---|
Chat search connectors | 通常チャット内で、クイックにファイルを検索し、元ファイルへのリンクを提供する |
Deep research connectors | 複雑なリサーチタスクを実行する「ディープリサーチ」の検索対象として、接続したコネクタを利用する |
Synced connectors | 予めGoogleドライブと接続・同期しておくことで、Googleドライブ内にあるファイルを高速かつ網羅的に回答に利用する |
Custom connectors | 任意のデータソースやアプリに、MCP規格で接続できる(企業独自のデータソースやアプリとの統合) |
SyncedコネクタやCustomコネクタは、個人向けではなく、ビジネス向けに特化した機能だといっても良いだろう。
そのためか、ChatGPTのプランによって、利用できるコネクタの種類が異なるので注意したい。
今後拡張されていくと思われるが、発表時点でのプラン別のコネクタ対応状況は以下の通りだ。
プラン | 対応コネクタ |
---|---|
Team、Enterprise、Edu | 全コネクタタイプに対応 |
Plus、Pro | Deep Researchコネクタのみ利用可能 |
以下、それぞれのコネクタについて、実際の使用画面を見ながら、使い方を紹介していく。
Connectorsの種類と実現できること
1. Chat Search Connectors(チャット検索コネクタ)
チャットコネクタは、Team/Enterprise/Eduプランのみで利用でき、単純に条件に合うファイルを探して欲しい場合に、クイックにクラウドやアプリ上の情報を検索してもらうためのコネクタである。
特徴
- 日常的なタスクに最適化された軽量な検索機能
- リアルタイムでの双方向やり取りをサポート
- 複数ソースからのコンテンツ統合
実現できること
- ファイルの迅速な検索と表示
- コンテキストの即座な把握
- 元ファイルへの直接リンクアクセス
対応アプリケーション
- Box
- Dropbox
- Microsoft OneDrive
- Microsoft SharePoint
- Google Drive(synced connector として利用する場合のみ)
ChatGPTで、「検索」ツールをオンにした状態で、「情報源を追加する」というボタンをクリックすることで、Box、Dropbox、SharePointなどのアプリと接続することができる。

チャットの中では、「Dropboxに保存した先週作成したロードマップを探して」などと指示をすることで、ChatGPTが自らDropbox内を検索し、見つかったファイルへのリンクを提供してくれる。
プロンプトの中で、「Dropboxで〜を探して」とか「Googleドライブに保存した〜を」とか、検索すべき対象に触れるのがコツである。

チャットの中で、コネクタで接続したアプリに言及すると、上の画像のように、アプリ名が青色の太字になる。
この状態になれば、コネクタを利用した検索が行われることが確定するので、使いやすい。
2. Deep Research Connectors(ディープリサーチコネクタ)
長時間、反復的にウェブ検索を繰り返し、ユーザーのプロンプトに対して非常に詳細なレポートを提供してくれる「Deep Research」機能。
ただでさえ非常に便利なディープリサーチだが、ディープリサーチコネクタをオンにしておけば、GmailやGoogleドライブ、Dropbox、Microsoft Outlook/Teamsなど、プライベートの情報ソースまで入り込んで「Deep Research」を実行してくれる。
特徴
- 複雑なタスクに対応した包括的な分析機能
- 複数のアプリやストレージを横断した詳細な調査
- ソースとなる引用元ファイルへのリンク
実現できること
- 人間のスタッフに依頼するレベルの複雑なタスクの実行
- 「第二四半期にローンチしたすべての機能をPR資料、仕様ファイルから要約せよ」
- 「昨日のMTGで言及された障害の原因を特定し、今後のアクションをリスト化せよ」
対応アプリケーション
- すべてのChat Search対応アプリ
- GitHub
- Gmail
- Google Calendar
- Google Drive
- HubSpot
- Linear
- Microsoft OneDrive
- Microsoft Outlook(Calendar/Email)
- Microsoft Teams
- Custom Connectors (MCP)
ChatGPT上で利用するには、ディープリサーチツールをオンにした状態で、「情報源を追加する」でソースを接続する。
ちょっとしたサンプルとして、GmailやGoogleドライブを接続した上で、過去に旅行した際の航空券や宿泊先の記録を整理してもらうように依頼してみた。

長い時間をかけて、Gmailの過去のメールの検索、Googleドライブ上でのファイル検索を繰り返し、過去の旅行の記録を見つけてきてくれた。

顧客データや売上情報をリサーチしてチームの次回MTGでの検討事項を整理してもらったり、カレンダーやメールを参照して優秀な秘書のように振る舞ってもらったり、確定申告の際にオンラインサービスに支払った料金の見落としがないかを調べてもらったり、あらゆる応用が考えられる。
「ディープリサーチコネクタ」は、PlusプランやProプランでも利用できるため、所属企業からChatGPTのアカウントが貰えていない人でも体験できるのもメリットだ。
3. Synced Connectors(同期コネクタ)
検索コネクタの場合、Googleドライブなどのクラウドストレージを接続していても、ユーザーが質問をするたびに、ChatGPTが毎回ファイル検索をゼロからやり直すので、若干非効率だ。
その点、Syncedコネクタを利用すると、予めGoogleドライブ上にあるファイル構造の全体をChatGPTが把握している状態で質問ができるので、遥かに効率的にファイルの発見・参照が可能になる。
ただし、Google Workspaceの管理者であるIT部門が許可をしてくれないと利用できないため、たとえTeam/Enterpriseプランを利用していても、多くの企業ではまだ利用できない可能性も高い。
特徴
- 事前の同期・インデックス化による高速化
- ChatGPTの知識ベースとしてGoogleドライブを機能
実現できること
- より高速な回答生成
- 回答品質の向上
- ソースへの再クエリ不要
現在アプリ
- Google Drive (ワークスペース管理者の許可必要)
4. Custom Connectors(カスタムコネクタ)
ChatGPT Team、Enterprise、Eduなどの組織プランか、個人でも高額なChatGPT Proプランのみで利用できる。
当サイトで過去に紹介したこともあるMCP規格に対応したサードパーティアプリや、自社独自のAPIなどと、ChatGPTを接続することができるコネクタだ。
利用するには一定の開発知識が必要になるため、個人での利用頻度は低いかもしれないが、企業内部では非常に有用な機能だ。
特徴
- Model Context Protocol (MCP) に準拠
- 内部システムとの連携が可能
- 開発者向けの高度なカスタマイゼーション
実現できること
- カスタムデータベースへの接続
- 内部APIとの統合
- 独自のビジネスシステムとの連携
利用可能プラン
- ChatGPT Pro(個人利用)
- ChatGPT Team、Enterprise、Edu(組織利用)
コネクタ以外の新アプデ「Record Mode」:MTGの文字起こしと自動サマリー
また、今回のライブ配信では、ビジネス機能強化の一環として、新たに「Record Mode」も公開された。
現時点では、ChatGPT Team, Enterprise, Eduなどの組織プランに加入しているユーザーのみに展開されている。
コネクタとはまた異なる機能だが、会議の録音と、自動的な議事録の生成、会議の内容を踏まえたネクストアクションの提案などを行なってくれる。
現状、ChatGPTのMacアプリでのみ対応されており、インターフェース上に録音ボタンが現れる。

MTGの音声を録音すると、文字起こしが行われてタイムスタンプ付きで全文が読めるほか、その内容を議事録の形にChatGPTが整えてくれる。

議事録内には、各議論が行われたタイムスタンプが引用リンクの形でついており、タイムスタンプをクリックすれば、MTGの文字起こしから該当箇所を読み直すことも可能だ。
今後、会社でのミーティングは、議事録担当がいなくても、ChatGPTが全てを代行してくれるようになるだろう。
OpenAIが示したコネクタのユースケース
コネクタが発表されたOpenAIのライブ配信の中では、架空の企業「AGI Corp」(動物・ペットに関するAIカンパニー)を題材として、複数のChatGPTコネクタのユースケースが紹介されていた。
ここでは、それらのユースケースを振り返りながら、ChatGPTのコネクタを利用することで、企業がどんなことを実現できるのかを紹介していく。
検索コネクタ:製品パフォーマンス分析
ライブ配信では、検索コネクタを用いて、ChatGPTとGoogleドライブ、Dropboxを接続した上で、ストレージ上に保存された様々な情報を要約するデモが行われた。
「Q2のマーケティング・製品戦略について教えてください。Q2で最も収益を上げた機能は何ですか?」と尋ねると、Googleドライブ上に保存されているGoogleスライド、スプレッドシート、ドキュメントを参照して、的確な前四半期の振り返りサマリーが生成されていた。

また、ChatGPTでは、単にテキストベースの情報を引き出すだけではなく、クラウド上に保存されているスプレッドシートなどを読み込んで、Pythonを用いたグラフの生成まで可能だ。
具体的なプロダクトのDAUをグラフ化する「Bark-to-Text v2の日次アクティブユーザーの時系列プロットを生成してください」というクエリを受けて、瞬時にPythonのMatplotlibを用いて画像生成が行われた。
ちょっとしたデータ分析やダッシュボードであれば、検索コネクタをオンにしたChatGPTだけで瞬時に完了してしまうことに、本当に驚かされる。

また、参照すべきファイルを検索し、リンクの形でユーザーに提供させることもできる。
「Dropboxから最近のペット飼い主のユーザーインタビューを見つけてください」と指示すれば、Dropbox上に保存されたワードファイルを見つけてきて、その中身の要約やインタビューの日付を含めて一覧化してくれている。

検索コネクタを利用することで、ファイルの高速な検索や、ファイル内のデータの可視化やサマリーが非常に容易になることがわかる。
Deep Research コネクタ:Q3事業計画の策定
Microsoft OutlookやTeams、CRM(顧客関係管理)ツールであるHubSpot、社内の情報共有ツールであるSharePointなど、複数のサービスを横断して、詳細なリサーチと戦略策定を行うデモも示された。
ディープリサーチコネクタを用いて、「HubSpotを確認して、当社戦略と重複する成約可能性の高い案件を教えてください。SharePoint、Teams、Outlookでの議論と併せて分析してください。」と、CRMとメール履歴などをあちこち参照して、見込み顧客の炙り出しを行わせるデモである。

9分間にも及ぶリサーチによって、人間が行うと数時間はかかるようなレポーティング業務が、ChatGPTで一発で生成できてしまった。

ここまでChatGPTが進歩すると、企業内での報告業務などは、かなりの程度コネクタを実装したChatGPTによって代替されてしまいそうだ。
ChatGPTを導入していない企業では働けないレベル
今回リリースされたChatGPTのConnectors(コネクタ)機能は、企業の内部データにChatGPTがアクセスすることで、多くの人力の業務を置き換えてしまうかもしれない、インパクトの大きなアップデートだ。
ベータ版ではあるが、Googleドライブとの同期などは非常にスムーズに動作し、日常的なファイル検索から、若干複雑なデータ分析やグラフ作成の作業まで、ChatGPTに依頼できるようになる。
ここまでAIツールが進歩すると、一個人としては、レポートが書ける・データ分析ができる程度のスキルセットでは、2-3年以内に失業しかねない恐怖すら感じてしまう。
月例の報告やレポーティングなどは、かなりの程度AIに頼めるようになるであろうから、退屈な雑務から解放されるというメリットもある。
MCPを用いたカスタムコネクタにも対応しているので、今後、ありとあらゆるサードパーティーアプリや、自社アプリをChatGPTに統合することが可能になる。
いち早く自社のデータベースをChatGPTに接続し、社内でのレポーティング業務を大幅に削減することができるかどうかが、企業の生産性を大きく左右してもおかしくない。